2026/03/27
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海外のサロンが放つ独特の空気感に魅了され、自らの店舗でもその世界観を再現したいと考えるオーナー様は少なくありません。
しかし、海外の事例をそのまま日本の一般的なテナントに当てはめようとすると、天井の低さや設備配管の制約、さらには素材の質感の差によって、どこか「作り物感」が出てしまうという課題に直面します。
突き抜けたおしゃれさを実現するには、単なる表面的な模倣ではなく、空間を構成する要素のロジックを理解する必要があります。
そこで本記事では、海外トレンドを取り入れつつ、日本の物件条件の中で「本物感」のある空間を構築するための設計ポイントをご紹介します。
海外風の空間づくりにおいて重要なのは、目指すべきスタイルを明確に定義し、その世界観を支える骨組みを正しく選定することです。
コンクリートや古材、アイアンを多用する「NYブルックリン風(インダストリアル)」、白を基調にモールディングやアンティーク調の家具を配する「フレンチシャビー」、無駄を削ぎ落とし、木の温もりと機能性を両立させた「北欧モダン」。
このように、海外風サロンには大きく分けていくつかの代表的なテイストが存在します。
それぞれのスタイルを決定づけるのは、壁面の質感や床材の選び方です。
例えば、あえてラフに仕上げた左官壁や、ヘリンボーン貼りの床など、ベースとなる面積の大きい部分の素材選びが、全体の完成度を左右します。
| 代表的なテイスト | 特徴・イメージ | 壁面の質感 | 床材の選び方 |
| NYブルックリン風 (インダストリアル) |
無機質でラフな、ロフトのような空気感 | コンクリート打ちっぱなし、レンガタイル、粗めの左官仕上げ | モルタル、ダークトーンの古材、幅広のフローリング |
| フレンチシャビー | 白を基調とした、クラシックで優雅な佇まい | モールディング装飾、マットな質感の白塗装、漆喰 | ヘリンボーン貼りの木製床、大理石調のタイル |
| 北欧モダン | 最小限の要素で構成された、温かみのある清潔感 | 明るいトーンの塗装、木製パネルのアクセント | オークやパインなどの明るい無垢材、グレー系の石目調タイル |
海外サロンのような開放的な演出には、天井高が大きな要素となります。
天井が極端に低い物件では、ダクトを露出させるインダストリアルな雰囲気や、背の高いミラーを配するクラシックなスタイルが成立しにくい場合もあります。
海外風のテイストを優先して目指すのであれば、物件探しの段階から、天井高や梁の位置、窓の大きさなどを慎重に確認し、デザインのポテンシャルを見極めることが重要です。
「ありきたりな美容室」を脱却し、海外らしいこなれた印象を与えるためには、素材の組み合わせ方や色のトーンを工夫する必要があります。
海外のサロンで多用されるタイル、石材、左官材などの素材は、その不均一な質感が空間に深みを与えます。
コンクリート打ちっぱなしの冷たさに温かみのある古材を合わせたり、マットな壁面に光沢のあるタイルをアクセントとして使い分けるなど、異素材をレイヤー状に重ねることで、単一の素材では出せない深みや本物感が生まれます。
色選びにおいて重要なのは、壁、床、家具のトーン(明度・彩度)を揃えることです。
鮮やかな色を多用するのではなく、あえて彩度を抑えた「くすみカラー」や、大地を思わせる「アースカラー」を基調とすることで、海外らしい落ち着いた、洗練された空間となります。
色の調和が取れていることで、個性的な家具を配置しても空間全体がバラバラにならず、一つの確立された世界観としてまとまります。
空間の仕上がりを最終的に決定づけるのは、光の演出と、その場所に最適化された家具の存在感です。
日本の美容室では全体を均一に明るくしがちですが、海外流の設計ではあえて「光の溜まり場」と「影」を意識的につくります。
例えば、象徴的なペンダントライトや壁面のブラケットライトを効果的に配し、空間にドラマチックな陰影を生み出すなどが挙げられます。
セット面においても、作業に必要な照度を確保しつつ、あえて低照度なエリアを残すことで、落ち着きのあるラグジュアリーな雰囲気を演出できます。
海外風の独特なサイズ感や質感を追求する場合、既製品の家具だけでは対応できないことも少なくありません。
空間に馴染ませるため、受付カウンターやミラー枠などをオーダーメイドで設計することも視野に入れましょう。
既製品のセット椅子を採用する場合でも、周囲の什器をカスタマイズ設計することで、空間全体のグレードを底上げすることが可能です。
海外のエッセンスを取り入れた、美容室の施工事例をご紹介します。

「美のアップデート」をテーマに掲げたメンズ美容室。
入店して最初に目にするのは、清流のような瑞々しさを表現したエントランスです。
カットスペースとの間にブルーのエフェクトガラスを配置することで、店外からの視線を適切に遮りながら、ゲストに鮮烈なファーストインプレッションを与えます。


通常はバックヤードに隠される調剤(マテリアル)スペースを、あえてフロア中央に堂々と配置。
上部に光幕天井を吊り下げることで、働くスタッフにスポットライトが当たる「舞台」のような空間へと昇華させました。
また、天井のライン照明にリズムを持たせることで、躯体天井の高さを視覚的に和らげ、フロア全体に統一感を与えています。

仕上げのスタイリング専用に設けた六角形の「ヘキサゴンブース」。
並列や対面の配置では難しい面積制限を、六角形にすることで解決。
コンパクトな動線で6つの面を確保しました。
カットスペースとシャンプースペースの中間に位置させることで、異なるエリア同士をシームレスに繋ぐクッションとしての役割も持たせています。

わずか7坪という空間を、海外のガレージのような密度感のある「大人の隠れ家」へと仕上げています。
コンクリート、露出配管、温かみのある木目、そしてサブウェイタイル。
これら多様な素材を緻密に組み合わせることで、空間に深みを与えました。
面積の制約による圧迫感を軽減するため、ガラスファサードによる透過性を確保。
さらに視認性の高いネオンサインを配置し、視覚的な焦点を分散させることで、数値以上の広がりを感じさせる空間を構築しています。


「友人の家を訪ねるようなラフな空気感」を具現化するため、バーバースタイル特有のヴィンテージな素材使いを徹底。
無機質なガレージ感と、使い込まれたような温もりが共存するデザインは、初めて訪れるゲストにも安心感と居心地の良さを提供します。
理想のデザインを日本の物件で実現するためには、国内特有のルールや建物の構造を無視することはできません。
海外の広大なワンフロアとは異なり、日本のテナントビルでは天井内の梁が複雑に入り組んでいたり、給排水の立ち上げ位置が限定されていたりすることが一般的です。
露出させた空調ダクトがデザインの邪魔にならないか、シャンプー台の配管に必要な床の高さが確保できるかなど、設備面での現実的な制約を初期段階でクリアしておく必要があります。
タイルや左官材などの天然素材は、経年変化による風合いが魅力ですが、一方で日々の清掃や薬剤汚れへの耐性も考慮しなければなりません。
サロンワークの動線を妨げず、かつ長期間美しさを維持できるよう、デザイン性と耐久性・清掃性のバランスを見極めた素材選びが、安定したサロン運営を支えます。
海外風のサロンデザインを日本で再現するには、スタイルの定義、素材の選定、そして照明による視覚効果のコントロールが重要です。
日本の物件特有の制約を考慮しつつ、細部の収まりやオーダー什器を組み合わせることで、意図した世界観を形にすることが可能です。
理想とする空間イメージと、サロンとしての実用性を両立させることが、納得のいく店舗づくりに繋がります。
この記事の監修者 中原優介

YUSUKE NAKAHARA中原優介
株式会社nero 代表。
福岡・東京エリアを中心に店舗デザイン・空間設計のプロフェッショナルとして
美容院や飲食店、オフィスなど全国の多様な空間をプロデュース。
洗練されたデザインと実用性を兼ね備えた「価値ある空間」を追求し、
ジャンルを問わず幅広い分野でクリエイティブな提案を行っている。